2014年6月から三回に分けて更新し、2014年9月23日まで掲載していた、クリング少年の追いかけ日記です。

クリングの1人称の日記なので、文章としてはかなり崩しております。

途中からよくわからないテンションになったりしますが、最後はきちんと繋がる所は繋がりますので……!


クリング少年の観察日記




○月○日

 今日は第三部隊と合同で実地訓練に参加した。
 目の前に獣型のモンスターが鋭い歯を見せながら迫ってきて、本気で死ぬかと思ったが、騎士の人が颯爽と現れて一瞬で還してくれた。その無駄のない動きに思わず見とれてしまったほどだ。
 黒髪、黒目、眉間にしわを寄せていて、ちょっと怖かったが、腰が抜けた僕に手を差し伸ばしてくれた。その手は豆でごつごつとしていて痛かったが、たくさん鍛錬を積んでいる人なんだと思った。
 名前を聞いたら、「フリート・シグムンドだ」とぶっきらぼうに返してくれた。

 フリートさん。

 まだ若手なのに素晴らしい技術を持っている人。
 その名前をしっかり頭に焼き付けた。


○月△日

 今日は騎士団の模擬演習の見学。
 間近で実践を見れて、見習いの僕たちには興奮気味だった。
 特に僕が目を引いたのは、第三部隊の女性班長とフリートさんの試合だ。班長の中でも指折りの強さを持っているその人に、フリートさんは互角に戦っていた。

 凄い、とにかく凄い。双剣から繰り出される素早い攻撃を、すべて受け止めている。さらにはそこから攻撃にも転じている。
 他の見習い達も息を呑んでいた。「すごいな……」と呟いている奴もいる。
 ちょっと待てよ、僕が先に目を付けた人なんだからな。僕の方がフリートさんの目に焼き付けているんだぞ。

 ――結局試合は女性班長さんに軍配が上がった。
 だが誰もが新人騎士に対しても拍手を送っていた。

 もっとお近づきになりたい。


○月×日

 騎士見習いの授業の休憩中に、思い切って第三騎士団の部屋まで行ってみることにした。入り口近くまで来ると、中から喧噪が聞こえてきた。
 がははっと笑う声。これはフリートさんのものではない。絶対にない。
 フリートさんは中にいるのかな? 一緒に笑っているのかな?
 けどふと思った。会ってどうするつもりかと。

 入り口の前で固まっていると、「どうしたの?」と声をかけられた。
 振り向くと銀髪の優男風味な人がいた。両手で茶色の大きな袋を抱えている。買い出しにでも行っていたのだろうか。

「第三騎士団に何かよう? 見習いの子だよね?」

 すると次々と質問を繰り広げてきた。僕はじりじりとその人から離れるように後ずさる。

「いや、僕は……」

 だがその時だった。

「おい、ロカセナ、戻ったのか?」

 なんとフリートさんがドアを開けて出てきたのだ! 若干疲れているように見えた。

「うん、今戻ったところだけど、この子が入り口にいて……」

 ロカセナという男がフリートさんに話しかけると、視線が向かれた。思わず姿勢が正しくなる。一瞬眉をひそめたが、すぐにあっと声を漏らした。

「お前はたしか前の実地訓練で一緒になった――たしかクリング」

 ぼ、ぼくの……僕の名前を覚えていてくれた!

 嬉しすぎて、舞い上がって、その後は何を喋っているかわからなかった。でも、フリートさんに剣の指導をしてくれると約束したのだけは覚えている。
 何度も念を押して、慌てて挨拶をして授業へと戻っていった。
 幸せだ。たとえその後の授業で先生に怒られようが関係ないのさ。

 そういえば……ロカセナって呼ばれた人、フリートさんと仲が良さそうだった。タメ口。
 あの人は誰……?





○月●日

 剣の指導をしてくれる前夜はドキドキしすぎて、なかなか寝付けなかった。
 だって憧れの騎士からの指導だよ! ドキドキしない方がおかしいじゃん!
 見習いで使っている剣を入念に拭き、ぴかぴかにした。服も綺麗なのを引っ張ってきた。
 準備も万端にしたところでベッドに横になったが眠れない。
 けど人間って言うのは不思議なもので、時間が経過すると多少は寝ることができたのだ。

 そして当日。
 自分としては早めに来たつもりだったが、既にフリートさんは鍛錬場にいた。しかもあの銀髪の人と談笑しながら。
 あれ、それによく見ると二人とも汗かいている!?
 もしかして僕の前に二人で稽古していたの!?

「朝早くから付き合わせて悪かったな、ロカセナ」
「別に構わないよ。こっちもいい汗かけたし。……あ、来ているみたいだよ」

 銀髪がこっちを見ている。僕は無表情のままその人を見たが、フリートさんを見ると慌てて笑顔を繕った。
 銀髪の顔が一瞬ひきつったような気がしたが、僕にはまったく関係ない。フリートさんが軽く頷くと、声を投げかけてくれた。

「クリング、早速やるか!」
「はい!」


 フリートさんの剣の指導は本当にうまかった。見る見るうちに上達していくのが、自分でもわかった。
 なんてすごい人なんだろう。自分で剣を振るだけでなく、人に教えるのもうまいなんて。
 終わった後にはもちろん次回の指導の日程を組んでもらった。日にちをいくつか指定すると、難しい顔をしつつもどうにか入れてくれた。そしてまたと言われて、見送られる。

 すごく充実した日々だった。
 幸せだ。
 もっと強くなろう――そう思った。

 指導の途中で去った銀髪のことなど忘れて。


△月●日

 何度目かの稽古の三日前に、フリートさんが食堂で僕を見るなり駆け寄ってきた。
 僕を見るなり!
 僕の周りにいた友達がざわめいている。それはそうだろう。
 一介の見習い騎士に、二年前に近年稀にみるトップ成績で騎士になった人が僕の元にやってくるのだから。
 フリートさんは若手騎士の中ではかなり有名だ。上からも、下からも。

「クリング、ちょっといいか?」
「はい、何でしょうか?」
「……すまない、今度の稽古はまたの機会にしてもらっていいか? たぶん当分先になるが」
「……え?」

 思いも寄らぬ内容に僕は言葉を失った。
 フリートさんが忙しいのは知っている。それでも1、2週間に1度くらいは時間を作ってくれるのに……。

「隊長から頼まれて、遠征に出ることになった。他にも転々とする予定だから、たぶん1ヶ月は戻れないと思っている」

 えええええ、待って少なくても1ヶ月も会えない!?
 どんな遠いところに行くの!?
 僕のフリートさん!!

「ど、どこに行くんですか……?」
「それは公にはできないことになっているが、ミスガルム領の北とだけ言っておく」
「おひとりで行くんですか?」
「いや、ロカセナと二人だ。騎士は基本的に二人一組で行動だからな」

 ロカセナ……あの銀髪!?
 なぜか非常にイライラしてきた。
 フリートさんと1ヶ月以上も二人で行動だなんて!!

「フリート、隊長が僕たちのことを呼んで――――ひっ!」

 フリートさんの傍に寄っていた銀髪を僕は睨みつけた。そいつは後ずさりながら、フリートさんから離れていく。

「さ、先に行っているね。それじゃあ……」

 そしてとっとと行ってしまった。
 あんな優男がどうしてフリートさんと一緒に行動するんだ。納得ができない。

「……というわけだから、すまんな、クリング。しばらくできないから、自主練はしっかりするんだぞ」
「……はい」
「今度会ったとき、成長した姿を見させてくれな」
「はい!」

 そうだ、この1ヶ月は僕が試される期間なんだ。フリートさんをあっと言わせるくらい、うまくなろう。
 そして騎士になったときはフリートさんと肩を並べるんだ。

 新たな決意とともに、僕はフリートさんを見送った。




△月□日

 何だ、あの目立つ金髪の女は。
 初めてその人を見たときはそういう感想を抱いた。フリートさんの後ろについて、もう一人の銀髪の男と一緒にいて。
 町で知り合って、それで城の蔵書に興味があるから、ここに来ただって?

 なんて白々しい。

 僕は会った瞬間、そう思っていた。それに何となくだが、フリートさんが彼女を大事に扱いすぎているのが気になった。
 だから僕のフリートさんの傍にいる女を睨みつけてやった。だが彼女の反応はあまりなく面白くなかった。

 いつか言わなくちゃ。フリートさんはお前に構っている程暇はないって。
 騎士として役割を全うしつつ、後輩にまで面倒をかけてくれるんだから、お前に何か頼まれようとも動けないって。


△月◇日

 今日は久々に嬉しい日。フリートさんから声をかけられて、稽古をつけてもらった。
 突然でびっくりして、限られた時間だったけど、僕としては充実した時間だった。

「少しは上手くなったな」

 その言葉をもらうだけで僕の心は躍った。もっと強くなってフリートさんを驚かせたい。
 もっともっと上手くなってフリートさんに褒められたい。

 次に稽古を付けてもらうときのことを思い浮かべながら、僕はその後も剣を振り続けた。


△月●日

 昨日までフリートさんは朝早くから鍛錬所に顔を出していたから、その日は僕も早起きして、早めに行ってみた。けどいたのはカルロット隊長だけ。あまり好きでない隊長がいたのを見て、すぐに背を向けようとしたが、思わぬ言葉を投げかけられた。

「フリートならしばらく帰ってこないぞ」

 耳を疑った。
 事情を聞いてみると、あの女たちと一緒に出かけたらしい。しかもカルロット隊長曰く、かなりの長期的な遠征になるとか。

 驚きのあまりその場に突っ立っていると、隊長がそっと剣を差し出してきた。騎士が常備している量産品だ。

「フリートがこれをお前にだってよ。実戦で持つのは早いが、素振りくらいこれを使って行えって。結構目をかけられているんだな、お前。良かったな」

 模擬の剣や木刀と実際の剣では重みも扱い方も違うから、こちらに慣れておけということらしい。フリートさんの気の使い方に僕は感動し、その剣をぎゅっと握りしめた。

 すぐにまた城から出て行ってしまったのは寂しい。けど一人でもできると思われ、信頼されているのは嬉しかった。


 僕ではまだ一緒に行くことはできないけど、いつか一緒にいけるとなったときには、全力でフリートさんのことを守る。



 クリング少年の観察日記 完
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