2014/5/8~2014/6/5まで掲載した、拍手御礼のSS小説です。

カルロットとフリートのお話となっています。

軽めに書いているのですぐに読めると思います。

よろしかったら、どうぞ。



まだ焦るな


――何をやってもうまくいかねえ。俺、本当は剣を振るうべき人間じゃないのか?


 痛いくらいの日差しが、野外で剣を振っている騎士たちに突き刺さっていた。
 誰もが汗を流し、肩を激しく上下させている。既に何名かは脱水症状で離脱している者もいた。
 それを防ぐために騎士たちは休憩中は黙って、日陰で水分補給に専念していた。


 フリートも他の騎士団員たちと同様に、水を入れた皮革の口を開けて、ごくごくと飲んでいた。
 喉が潤い、全身に水が行き渡るような感覚になる。一気に半分程度飲んだところで口を離し、腕で口元を拭った。
 ふと自分の手に視線がいく。潰れた豆の痕が多数見える。だがその豆の痕と実力とは比例しなかった。
 ぎゅっとフリートは手を握りしめる。


 騎士となり、第三騎士団に配属が決まってからは、毎日が鍛錬の日々。過酷な環境下であろうが、ただひたすらに剣を振り続ける。素振り、動きの確認、連携戦――そして本日の鍛錬内容は模擬戦だった。


 フリートの相手は、双剣使いの班長セリオーヌ。女性でありながら、彼女から繰り出される攻撃は多種多様だった。
 彼女の模擬戦を見たことがあるが、実際に対峙するの初めてであり、数分間かわすので精一杯。一瞬の隙を突かれたところで、剣をはね飛ばされてしまったのだ。
 セリオーヌが同年代の中でも飛び抜けている技術を持っているとは知っていたが、ここまで圧倒されるとどのような感情を持っていけばいいかわからなかった。


――努力だけじゃ、どうにもならないこともあるのか? セリオーヌ班長は半分くらい感覚で剣を振っている。それに対して、頭を回転させながら対応するには遅すぎる。


 フリートは自分の荷物からタオルを取り出し、顔を吹いた。だが気力はわき上がってこず、ぼんやりとしてしまう。
 頭を冷やそうと思い、ぼーっとした状態で井戸へと歩き出した。
 ロカセナが心配そうな表情で、隊長のカルロットが口を一文字にしたまま見ているのにも気づかずに。




 井戸に着くと、先ほどまで使用されていたのか、周辺が水に濡れていた。
 溜息を吐きながら、井戸から水を汲み上げる。そして上半身裸になり、頭からざばっとその水を頭からぶっかけた。
 体の外部が急激に冷やされていく。汗でべたついていたくせっ毛の黒髪が、水によってストレートになる。
 ふうっと一息吐くまもなく、タオルで髪の毛をごしごしと拭きだした。
 自分への怒りをぶつけるかのように、力も加減せず。そして人気がないのを軽く確認してから、抱いていた思いを一気に吐き出した。


「ああ、もういったいどうすればいいんだよ!」


 もともとフリートは他の人より体力があったり、運動神経が優れているとは言い難かった。
 過去には高熱を出して、死の淵をさまよっていたことすらある。だがそんなフリートに対して母は付きっきりで看病をしてくれたのだ。
 それ以後、体力を付けるために二人で走ったり、栄養価のある料理をたくさん作ってくれた。
 そんな母親の想いにくみ取るためにも、今は立ち止まって入られない。


 しかし――才能には到底かなわない。


 首にタオルを巻いて、先端を両手で握りしめる。
 ふと急に視界が暗くなった。途端頭に手を乗せられ、ぐしゃぐしゃと頭を撫でられ始めた。


「よーしよし、フリートはいい子だなー、エラいぞー」


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「はい……?」


 目を点にして、フリートは為すままに頭をぐしゃぐしゃと撫でられる。カルロットが何を思ったのか、大剣を肩で担ぎながら、左手をフリートの頭にやっているのだ。
 髪がさらにぼさぼさになる。さらにはあまりに勢いよくやられたため、痛ささえも感じていた。


「隊長、いったい何ですか……」


「――焦るな」


 ぼそりと呟かれる。
 フリートが目を見張った隙に、彼は背を向けてスタスタとその場から離れ始めた。


「ちょ、待ってください。カルロットた――」


「あー、今日もいー天気だなあー」


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 フリートが呼びかけるのをまるで遮るかのように、どうでもいい言葉を発する。
 そして呆気に取られている間に、カルロットの背中は小さくなっていった。


「な、何だったんだ……?」


 まったく意図が掴めない。
 剣を振るのに生き甲斐を見いだしている彼が、どういう風の吹き回しでさっきの言葉を言ったのだろうか。


 ふうっと息を吐く。さっきまで考えていた内容が、カルロットの予想外の行動で半分くらい忘れてしまった。
 再びフリートは自分の手に視線を落とす。
 潰れた豆。そして新たにできている豆。


「焦るな……っか」


 自分で呟くことで、さらに少しだけ肩の荷が降りたように感じられた。
 今度は軽く握りしめてから離し、息を吐き出してから、前へと進み出す。
 表情がやや柔らかくなったのに気づきもせずに。
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