2014年3月末くらいから、5月上旬までアップしていた、拍手用のSSです。

紗綾さんが描いたイラストを元にした、ラブコメっぽい感じの緩い内容となっています。

本編がドシリアス過ぎて、推敲なしで書いた内容なので、割と粗があります……。

ゆるーい感じの、フリート&リディスを読みたい方はどうぞ!


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 拙いダンスを。


「おい、フリート、時間あるだろう。ロカセナやリディスと一緒にちょっと潜入調査してこい」
「はい? 三人で潜入調査? どうして俺たちが?」
「正装が似合いそうな連中だからだよ。セリオーヌに詳細は言ってある。時間もねえから、つべこべ言っていないで、行ってこい!」

 部隊長であるカルロットに背中を無理矢理押されながら、フリートは部屋から追い出されていた。
 躓きそうになりながらも耐えきる。
 外に出ると、セリオーヌが腕を組んで肩をすくませ、隣ではロカセナが苦笑し、リディスがきょとんとして立っていた。

「フリートとリディスは表側で潜入、ロカセナは裏周りをお願いするわ。ただそのままだと、気づかれるから可能性があるから、少し手を加えるからね」
「あの、ですから、いったい何がしたいんですか!?」

 話の筋がまったく見えてこない。突然隊長から用件を突きつけられ、戸惑っている中での会話に、さすがのフリートでも頭が回らなかった。

「移動しながら説明するわ。外に馬車を出してあるから、その中でね」

 踵を返して、セリオーヌは歩き始める。この状態では何を聞いても無駄だろう。

「すみません、せめて行き先だけでも……」

 ぽつりと呟くとセリオーヌは背中越しから声を投げかけられた。

「城下町外れにある屋敷でパーティがあるから、それに参加してもらうわ」
「……はい?」



 カルロットの要請により、フリートたちは馬車に乗せられ、城壁に近い屋敷に連れてこられていた。
 庭は非常に広く、常に枝葉は整えられた状態にあり、外見から見ても金持ちが住んでいそうだとは薄々予想できる。
 その屋敷の主の名前を聞いた瞬間、フリートは思わず眉をひそめてしまう程、あまりいい噂を聞かない人だった。
 今回のパーティは表向きでは、周辺の貴族と親睦を深めるための行事であったが、裏では闇取引を行うための日でもあるらしい。
 それを事前に察知した騎士団が、それを摘発するために、潜入調査を行うことになったのだ。

 潜入内容としてはこうだ。

 基本は無茶をせず、パーティに参加して情報収集のみ。
 だが余裕があれば、摘発もしてほしいという案だった。
 誰が取り引きするか不明確なため、とにかく情報が欲しいということらしい。
 フリートはセリオーヌからの内容をしっかりと脳内に入れつつ、屋敷近くで着替えることになった。


「はい、フリート、これかけてね」

 ロカセナに差し出されたものを、フリートは眉をひそめて見返す。
 スーツを着て、首には魔宝珠をネクタイのように下げて、髪の毛を整えたあとの出来事だった。
 それを見て目を疑ったが、ロカセナはにこにこしながら、ぐいっと差し出してくる。

「これ、必要か?」
「副隊長からのご命令。ほら、きっとこれをかければ、騎士団のフリートだって絶対に気づかないから!」

 しばらく唸りながら見つめていたが、ロカセナがまったく引かないことから、深々とため息を吐きながら、それを手に取り、かけた。

「似合っているよ、眼鏡フリート! いいところのお坊ちゃんみたい」
「……次それを言ったら、殴る」

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 不機嫌そうな表情で、黒縁の度が入っていない眼鏡をかけたフリートは、にやけている相棒を睨みつけながら、部屋から出ていった。



 パーティ会場の手前で、腕を組んでいる金色の髪の少女が緊張した面もちで立っていた。
 金色の髪をすっきりとまとめあげ、薄い緑色のひだが入ったシンプルなドレスを着ている。
 右腕にはいつも首から下げている魔宝珠が腕輪としてはめていた。
 彼女は黒髪と銀髪の青年たちを見ると、少しだけ表情を崩す。
 フリートは彼女を見た瞬間、その場に立ち止まった。
 スーツを着たロカセナは止まったフリートを目を丸くして見返す。

「どうしたんだい、フリート?」
「いや……」
「リディスちゃんが綺麗でびっくりしたとか?」
「……そんなんじゃねえよ!」

 止まっていた時を元に戻し、フリートは大股できょとんとしているリディスの元に近寄る。
 その二人を横目で見ながら、ロカセナはにやけた表情で言葉を残していく。

「それじゃあ、僕は部屋の外を見回りしているから、中のことはよろしく。二人で仲良くしてね。きちんとパーティに参加してよ」
「ああ、お前も気をつけてな」

 フリートはロカセナが何を意図して発言しているにも気づかずに、彼の背中をリディスと共に見送った。
 見えなくなると、視線は合わせずにフリートはリディスに声をかけた。

「入るか、中に」
「ええ」

 そして間もなくして、フリートはロカセナが言ったことを理解することになる。



 心地よい音楽が流れつつも、フリートはノンアルコールドリンクを飲みながら、周囲に目を光らせていた。それはリディスも同様で、度々やってくる他の男性客からの誘いを断りつつも、フリートとは逆方向を見ながら、周りを見ている。

「特に変わったところはないな」
「ええ。みんな楽しそうに歓談しているわ。視線を気にしている人たちもいないみたいだし……」
「デマならデマで、報告にはなるがな……」

 不服そうな顔をしていると、音楽が唐突に変わる。そして司会者の方が前に出て、笑顔で声を出す。

「さあ、皆様、今宵は存分に踊ってください。柔らかな音楽から、軽やかなものまで多数揃えていますから、お楽しみいただけると思いますよ」
「踊りだと?」
「踊りですって?」

 フリートとリディスは声を重ねて、司会者の言葉を復唱する。お互いに顔を見渡すと、二人してやや半歩下がった。
 周囲では手を取り合った男女が笑顔で中央へと踊りでる。そして軽やかな音楽と共にその者たちは慣れた手つきで、笑顔で踊り始めた。それに続けと、会場内にいた人々は男女で手と手を取り合って、テンポよく踊り出す。
 あっという間にフリートたちの周囲は踊りを楽しむ者たちでいっぱいになったのだ。
 呆気に取られながらその様子を眺めていると、軽やかに踊っている男女が二人の元に近寄ってきた。

「あなたたちも早く踊りなさいよ」
「いえ、ダンスとかそんなものは……」
「ダンスパーティなのに踊らないの? ほら、みんな待っているわよ!」

 フリートははっとして、パーティの題目部分のサブタイトル部分に視線を向けた。
 書いてあったのだ、ダンスパーティと。
 気がつけば、会場内にいる人間たちの視線を一斉に浴びることになる。
 ロカセナがにこやかに微笑みながら楽しんでと言ったのは、こういうことらしい。
 冷や汗をかきながら、フリートは金髪の少女を見下ろした。

「お前、踊れるか?」
「……え、こういうのって男の人がエスコートしてくれるんじゃないの!?」
「つまり踊れないのか」

 核心を突くと、リディスは渋々首を縦に振った。

「だってお父様がこういう場には妙な輩がいるから、参加するなって……。小さい頃は遊びで踊ったけど、何年前かしら……」
「過保護な親を持つと大変だな」
「そういうフリートはどうなのよ!」
「一応見習いの時代に練習はしたことがある」

 フリートは正面に立って、軽く右手を差し出し、左手で胸の部分に添えて軽く頭を下げる。

「やり方はほとんど忘れたが、適当に踊っていればどうにかなる」
「じゃあ、任せるわね」

 微笑みながらリディスは手を取り、軽く礼をする。
 そしてフリートは右手を彼女の腰に恐る恐る添えて、右手で彼女の左手を引っ張ろうとしたが、なかなか伸びなかった。
 眉間にしわを寄せると、リディスがつま先で立とうとしている。

「ちょっとフリート引っ張らないでよっ!」

 音楽に合わせながら軽く左右に動いていると、リディスの不満そうな声が漏れ出てくる。

「こうでもしないと、ダンスっぽく見えねえだろう!」
「けど……」
「お前が小さいのが悪いっ」

 吐き捨てると、リディスは眉をひそめた。

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「何ですって……!? あなたが大きいのよ! 勝手に人のせいにしないで!」
「あー、とりあえず黙ってろ。ダンスしながら、ぺちゃくちゃ喋るか。口さえ開かなければ、少しは見られる女なんだからよ」
「女性に対して使う言葉……!? 失礼よ、いくらなんでも失礼!」

 リディスが手を振り払おうとするが、フリートは逃すまいと、しっかり握りしめた。何となく形になっていたダンスはどんどん崩れていく。足裁きはまったくあっておらず、互いに踏み合う。

「おいこら待て。てか、痛てえよ。ここで別れたら、目立つだろう!」
「こっちこそ踏まないで。借り物の靴なんだから! つべこべ言う前に謝りなさいよ。別にいいじゃない、別れても!」
「ヒールの部分で踏むな! 俺は上司から直々に言われたんだよ。そう簡単に切り上げられるか!」
「痛いって、引っ張らないで! ああ、もう、知らないわ。もっと内容を詳しく聞いていれば、こんなことにはならなかったのに! ロカセナならもっと優しくエスコートしてくれたわよ」
「ああ!? ここであいつの名前出すか!? 俺だって好きでやっているんじゃねえ!」
「私もよ! 眼鏡かけても、やっぱりフリートはフリート。多少は丸くなったかと思ったのに、性格はまったく変わらないんだから!」
「眼鏡のことは触れるな! お前だってな、化粧して多少は化けたつもりか? けどよ、口はまったく減らねえな!」
「化けたとか、酷い! あとで上司に言いつけてやる!」
「ちくるな! 卑怯だぞ!」
「私が何をしようと勝手でしょう! 私はフリートの何者でもないんだから!」
「だからってな、やっていいことと、悪いことがあるだろう! だいたいお前はな――」



 永遠に続く二人の口喧嘩。

 ダンスはほとんど形になっておらず、ただゆらゆらと揺れているだけだった。
 拙いダンスの中でのあまりの口喧嘩っぷりに、観衆は手を止めて、二人の様子を苦笑いで眺めている。
その会場にいた客のほとんどが視線を二人に釘付けだったため、妙な動きをしている者を見つけるのは容易だった。
 ロカセナは視線を左右にきょろきょろ向けながら会場から脱出した男性のあとを、こっそりと追った。とあるドアの前に立つと、再び周囲を見渡してからするりと中に入り込んだ。鍵をかちゃりと音をたててかける。
 ロカセナもその前に立ち、ドアに耳をつけて、中の音を聞いた。中に他の男性がいたのか、話し声や衣擦れの音が僅かに聞こえる。
 おそらく取り引きしているのだろう。
 もはや躊躇う必要などない。
 針金を取り出して鍵を静かにあけると、ロカセナは剣を軽く添えながら入り込んだ。中には目を丸くしている二人の男性がいる。

「誰だお前は……?」
「――あなたたちを裁きにきました」

 そしてにやりと口元に笑みを浮かべた。


 * * *


「今回はお手柄だったな、ロカセナ!」
「いえ、フリートたちがいたおかげですよ。彼らが注目を浴びなければ、わかりませんでした」
「その話は出すな!」
「なかなか面白れえダンスのことか。見たかったな! 今度踊ってみろ!」
「誰がしますか!」

 カルロットはがははと大笑いしながら、赤面のフリートの言葉を受け流していた。
 ぎろりとロカセナに視線を向けるが、彼はいつも通りにこにこしながら、その視線を逸らしている。
 怒りをぶつけられず、フリートは拳をぎゅっと握りしめたのだった。



 フリートとリディスのおかげで、無事に目的の人物たちを捕まえることに成功。
 早々に捕らえられたということに、騎士団の中では大いににぎわったが、同時に二人のダンス捌きや痴話喧嘩の話も後々まで語り継がれることになったとは……直後では察することはできなかった。



 了
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『魔宝樹の鍵』各章のあらすじ

最愛オリキャラバトン

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